メーカー評議員のご紹介
メーカー評議員は、ジャパニーズウイスキーのつくり手の皆さまで、日本ウイスキー文化振興協会の主旨にご賛同いただき、ジャパニーズウイスキーの定義の法制化と、ジャパニーズウイスキー文化の振興のため、ご協力いただいている方々です。
※ 蒸溜所名の50音順に掲載しております
西堀 哲也
Tetsuya Nishibori
西堀酒造株式会社 六代目蔵元 日光街道 小山蒸溜所製造責任者
1990年生。栃木県小山市出身。東京大学文学部哲学科卒。大学卒業後、都内ITシステムベンダーのエンジニア職を経て、2016年末、家業の西堀酒造へ入社。入社後は日本酒、焼酎、リキュールの酒造作業に従事しながら、WEB・EC関連業務やバックオフィス整備、海外輸出や新商品開発、新規事業開発に取り組む。醸造遠隔管理システムの独自開発や、業界唯一のLED色光照射発酵日本酒等を考案(双方とも特許取得済)。2022年には酒造敷地内に栃木県内初のウイスキー蒸溜所「日光街道小山蒸溜所」を立ち上げ、製造責任者としてウイスキー、ウォッカ、ジン等を造っている。
日光街道小山蒸留所
NIKKO KAIDO OYAMA
・所在地:
栃木県小山市大字粟宮1452
・オーナー企業(創業年):
西堀酒造株式会社
・創業(蒸留開始年):
1872年(2022年)
哲学科卒の若き6代目が造る
日本初の純国産ウイスキー
栃木県小山市の旧日光街道沿いにあるのが、1872(明治5)年に創業した西堀酒造だ。日本酒の「若盛」や「門外不出」を造る老舗蔵で、そこの6代目・西堀哲也さんが挑んでいるのが、日本酒造りの伝統を活かした"純国産"のウイスキー造りだ。
「日本でしか造れないウイスキーは何かということを考えた末に、たどりついたのが、清酒酵母を使ったウイスキーでした」
清酒酵母はもちろん日本にしかない酵母。多くのクラフト蒸留所はウイスキーに特化した外国産のウイスキー酵母を使っているが、日本発のウイスキーが外国産酵母でいいはずがない。そもそもウイスキーのマッシングや発酵、そして蒸留のやり方も西欧式がベストといえるのか。根本的な原理原則に立ち返ってウイスキー造りを考える。そうして誕生したのが、かつての精米蔵を改装した日光街道 小山蒸溜所だった。
しかし、やってみるとこれが難しい。そもそも清酒酵母は一般的にブドウ糖(グルコース)しか資化できず、麦汁組成中の4割を占めるマルトース、麦芽糖は資化できない。資化とは酵母が糖を食べてアルコールと二酸化炭素に分解する作用のことをいう。つまり清酒酵母で麦汁を発酵させても、2%くらいのアルコールしか生成されないのだ。
「そこで考えたのが、日本酒でやる段仕込み。三段仕込みで酵母を培養し、スケールアップすることでした」と、西堀さん。通常のウイスキーの発酵より手間がかかるが、これで蒸留酒酵母と同様の8%くらいのモロミができるようになったという。
小山蒸溜所が造るのはモルトウイスキーとグレーンウイスキー。他にウォッカやジンも造るが、それらの蒸留をするのも、通常のスチルではなく、減圧ができるオリジナルのステンレス蒸留器だ。グレーンウイスキーの原料は吟醸酒などの米を磨いた後の米粉。これを麦芽で糖化し、清酒酵母で発酵させるが、ここでも、西欧式の銅のスチルが本当に正解なのかどうか、根本から考えたという。清酒酵母で醸す繊細なモロミには、減圧蒸留で沸点を下げたほうが良いのではないか。
そこで製造を依頼したのが、兵庫県の薮田産業。西堀さんの意向を伝え、いわば共同開発でオンリーワンのスチルを作った。銅の良さを生かすため、ヘッドの内側部分に特殊な銅板を張っているという。もともと薮田産業のこのスチルは冷却装置も、シェル&チューブではなくプレート式の熱交換器。さらに釜内の圧力も細かく調整でき、求める酒質に応じて使い分けることができる。
「小山は日光山系の水が伏流水として地下に豊富に流れている場所。酒蔵の水も地下から汲み上げたもので、ウイスキーも同様にこの日光山系の水で仕込んでいます」。酒蔵の井戸には日光二荒山神社の小さな社が祀られている。また明治期に建てられた酒蔵の建物と煙突は、国の登録有形文化財にも指定されている。国酒・日本酒の醸造技術を取り入れたウイスキー、スピリッツ造り。
東京大学の哲学科を卒業し、システムエンジニアの会社に勤めた経験をもつ、若き6代目が挑む、誰もやったことのないウイスキー造り。西堀哲也さんの哲学的なウイスキー造りから目が離せない…。