メーカー評議員のご紹介
メーカー評議員は、ジャパニーズウイスキーのつくり手の皆さまで、日本ウイスキー文化振興協会の主旨にご賛同いただき、ジャパニーズウイスキーの定義の法制化と、ジャパニーズウイスキー文化の振興のため、ご協力いただいている方々です。
※ 蒸溜所名の50音順に掲載しております
岡空 晴夫
Haruo Okasora
千代むすび酒造株式会社 代表取締役社長 境港蒸留所
広島大学工学部発酵工学科で発酵の専門知識を取得し、卒業後、大阪の酒問屋を経て実家の千代むすび酒造勤務。発酵食品を事業領域に定め、日本酒、焼酎、リキュール、 スピリッツ、ウイスキー、甘酒、醤油、漬物等製造販売。正直言って大手のウイスキーは飲んでも違いが判らず、中小零細企業では大手には勝てないと思い込んでいましたが、個性豊かなアイラ島のウイスキーを飲み、ウイスキーも個性があることを知り、又ウイスキーの定義が、余りにも全時代的なものに啞然とし、しっかりと本物のウイスキーを製造すれば勝機があると2021年1月にウイスキー製造免許を取得。2024年秋から酒造組合の内規基準ジャパニーズ・シングルモルトウイスキーを販売開始の予定ですが、納得いくまで出荷しない方針です。
・所在地:
・オーナー企業(創業年):
・創業(蒸留開始年):
伊藤 啓
Akira Ito
長浜浪漫ビール株式会社 代表取締役 長濱蒸溜所
株式会社リカーマウンテン、株式会社田村 商店、GLダイニングの代表取締役を兼務。グループのスピリッツバイヤーを経て、2018年から長浜浪漫ビール株式会社(長濱蒸溜所)の経営に携わる。日本最小規模の蒸溜所で、長浜を逆さ読みにした商品名『AMAHAGAN』のリリースやアーティスト、アニメーションとのコラボ商品を手掛ける。直営のレストランでは、ニューメイクハイボール『長濱ハイ』の提供、長浜市内の廃校を利活用したエイジングセラー、更に一泊二日でのウイスキー体験など、地域貢献を軸に置いた皆様が楽しんでいただける挑戦を続けています。
長濱蒸溜所
NAGAHAMA
・所在地:
滋賀県長浜市朝日町14-1
・オーナー企業(創業年):
長浜浪漫ビール株式会社
・創業(蒸留開始年):
1996年(2016年)
レストランとビール醸造所に
併設されたマイクロ蒸留所
琵琶湖の北東部に位置する滋賀県長浜市は、羽柴秀吉が初めて城持ち大名となった「長浜城」の城下町であり、江戸時代には近江北国街道の宿場町としても栄えた。歴史情緒あふれるこの町でウイスキーを製造しているのが長濱蒸溜所だ。
蒸留所があるのは、北陸本線長浜駅からほど近い、江戸時代の米蔵を改造したレストランの一角。地元長浜で創業し現在は京都に本社を置く酒販店のリカーマウンテンが、1995年に開業した「長濱浪漫ビール」だ。ビール醸造所兼レストランとして営業してきたが、開業20周年の記念事業としてウイスキーの製造にも参入、2016年より蒸留を開始した。
レストランのエントランスを入ると、右手にビールと兼用の糖化槽や発酵槽、奥にガラス張りの8坪ほどの蒸留エリアがあり、窓越しに鎮座するスチルが見える。店内には麦芽の香りが漂い、食事に訪れただけの人もウイスキーの製造工程を一望できるつくりだ。
「一醸一樽」をスローガンに、1回の仕込みで1樽(200~250リットル)という少量生産を続ける同蒸留所。仕込みはワンバッチ425kgで、年間仕込み回数は350回。年間生産量は8万リットル(アルコール度数63.5%)を目標とする。
仕込水は伊吹山の伏流水で、硬度は約40mg/l。モルトは主に英国クリスプ社製のものを使うが、近年は地元滋賀県産の大麦麦芽を用いた試験仕込みも実施している。マッシュタンは米国ボヘミアンブリューワリーインポーターズによる銅製のもので、容量は2,000リットル。発酵タンクは温度管理ができるタイプで、容量2,000リットルのステンレス製。ここに約1,900リットルの麦汁を張り込み、米国産ウイスキー用ドライイーストを投入、72時間かけて発酵する。
蒸留器は、ポルトガルのホヤ社製アランビック型ポットスチルを使用。容量は1,000リットル、高さ2メートルほどの小ぶりで愛嬌のあるひょうたん型が目を引く。もともとは2基でスタートしたが、2018年に3基に増設。うち2基を初留器、1基を再留器として使用しており、発酵槽からアルコール度数約8%のモロミを回収したら、半分の950リットルずつに分けて2基の初留器に張り込む。得られた2基分のローワインに前回蒸留した際のヘッドとテールを加え、約800リットルを再留。そうして得られるのが1樽分のニューポットだ。
樽詰めは現在63.5%で行っている。樽はバーボン樽をメインに、アイラのクォーターカスクやシェリー樽、各種ワイン樽などバラエティ豊か。熟成庫は、2018年から使っている長浜市内の廃道トンネルのほか、2021年からは廃校となった長浜市立七尾小学校の校舎を「AZAI FACTORY」と名付けて使用。さらには琵琶湖に浮かぶパワースポットとして人気の竹生島や、沖縄での熟成も試しているという。
見学も積極的に受け入れている。ガイドと試飲付きの見学ツアー(月10日程度・1日2回開催、2,200円)や、1泊2日の蒸留体験ツアー(月1回程度、44,000円)が定期的に開催されるほか、イベント時には七尾小学校の理科室でブレンディング体験なども行われる。
製品は主に、海外原酒と自社原酒をブレンドした「AMAHAGAN」シリーズ、国内の蒸留所同士で原酒交換した「INAZUMA」シリーズ、自社原酒のみを使用した「シングルモルト長濱」シリーズに大別される。
AMAHAGANシリーズは「ワールドモルト エディション No.1」などの定番商品のほか、限定ボトルも数多く発売されており、今年度は2022年3月に「エディション シャトーモンペラ」、4月にウクライナ支援チャリティーボトル「テストバッチ No.11 サケ カスクフィニッシュ」、2月と7月に漫画「まどろみバーメイド」とのコラボボトル3本がリリースされた。
2021年より発売を開始した「INAZUMA」シリーズは、第1弾が三郎丸蒸留所、第2弾が江井ヶ嶋蒸溜所とのコラボだったが、2022年5月に発売された第3弾は、長濱・三郎丸・江井ヶ嶋の原酒をブレンドした「エディションNo.3」として2種のボトルをリリース。1つは3社の原酒のみを使ったジャパニーズブレンデッドモルトの「SYNERGY」、もう1つは海外原酒も加えたブレンデッドの「EXTRA」だ。
「シングルモルト長濱」シリーズについては、2021年11月に「バーボンバレル バッチ0161」、12月に「ミズナラカスク バッチ0190 信楽焼干支ボトル」を発売。また、これまではシングルカスクのリリースのみだったが、2022年10月に初のシングルモルト「THE FIRST BATCH」を発売した。
堂田 浩之
Hiroyuki Doda
株 式会社新潟小規模蒸溜所 取締役社長 新潟亀田蒸溜所
地元、北海道の大学在学中に、ニッカウヰスキー余市蒸溜所を訪問し、ウイスキーの魅力に惹かれてゆく。ウイスキーに関わる仕事をしたいと思ったが、バブル崩壊後でさらに、ウイスキー冬の時代に直面し、その道を断念する。東京の商社に就職後、外資系製薬会社に在籍する。約20年間のサラリーマン生活を経て、株式会社大谷に入社。同社の新規事業として、ウイスキー製造事業を立ち上げ、現在に至る。
新潟亀田蒸溜所
NIIGATA KAMEDA
・所在地:
新潟県新潟市江南区亀田工業団地1-3-5
・オーナー企業(創業年):
合同会社新潟小規模蒸溜所
・創業(蒸留開始年):
2019年(2021年)
印章業界から異業種参入
好奇心とアイデアで拡張続ける
JR新潟駅から車で10分ほど。「亀田工業団地」と呼ばれるエリアでウイスキーを造るのが、新潟亀田蒸溜所だ。
母体は、「はんこの大谷」として全国に120店舗を展開する、印章メーカー最大手の株式会社大谷。同社取締役であり、蒸留所創業者の堂田浩之氏が、「印章業界は国内だけのビジネス。世界を相手にしてみたかった」と、合同会社新潟小規模蒸溜所を立ち上げたのは2019年のこと。新しい事業を始めるなら本当に好きなことで挑戦したい、との思いからウイスキー業界への参入を決意し、はんこ工場の敷地内に蒸留所を構えた。新型コロナの影響で設備の導入などが遅れたが、2021年2月から蒸留を開始した。
発酵槽はすべて木製に変更
自動製麦機で自社製麦も開始
新潟亀田蒸溜所のワンバッチは麦芽400kg。仕込水は阿賀野川の水で、麦芽は
英国クリスプ社製やマントン社製のほか、地元新潟産の「ゆきはな六条」も使用する。この新潟産大麦を自社で製麦しようと、2022年夏には中国製の全自動製麦機を導入した。浸麦から発芽、攪拌、乾燥まで1つの機械ででき、一度に1トンの大麦を扱える。乾燥はガスバーナーの熱風で行い、モルティングにかかる日数は約1週間。2022年秋以降から使用を開始する予定という。
アランラドック社のローラーミルで麦芽を粉砕し、糖化にはドイツ・チーマン社製のフルロイタータンを用いる。チーマン社はビール製造設備の専門メーカーで、同社のマッシュタンは清澄麦汁の抽出に優れるとの定評がある。新潟の清酒と同じく端麗で華やかな酒質を目指す堂田氏による、こだわりの選択だ。
ウォッシュバックは、当初使っていた3基のステンレス製発酵槽を、イタリア・ガルベロット社のホワイトオーク製に切り替えた。従来からあった同社のアカシア材製発酵槽と合わせて、現在6基の木製発酵槽が設置されている。容量はいずれも3,200リットルで、それぞれ2,000リットルの麦汁を張り込む。酵母はディスティラリー酵母とエール酵母を混合して使っているが、2022年春頃にはエール酵母培養用のイーストタンクも新調した。
ポットスチルはフォーサイス社製で、初留器が容量2,000リットルのランタン型、再留器が1,400リットルのバルジ型。初留は約5時間、再留は約6時間かけて行う。2022年夏には、初留器・再留器ともにサブクーラー(補助冷却器)を追加で設置した。これによって冷却の効率を上げている。
樽詰め度数は63%。いろいろな環境での熟成を試したいと、新潟県内の複数ヵ所にある熟成庫を使用するほか、敷地内に設置したコンテナを熟成庫とする試みも始めている。内部はダンネージ式で3~4段に積み上げる。いずれは保冷コンテナも使ってみたいと言い、次々と新たなアイデアを生み出している。