メーカー評議員のご紹介
メーカー評議員は、ジャパニーズウイスキーのつくり手の皆さまで、日本ウイスキー文化振興協会の主旨にご賛同いただき、ジャパニーズウイスキーの定義の法制化と、ジャパニーズウイスキー文化の振興のため、ご協力いただいている方々です。
※ 蒸溜所名の50音順に掲載しております
宇戸田 祥自
Utoda Shoji
有限会社津崎商事 代表取締役 久住蒸溜所
宮崎大学大学院農学研究科修士課程卒業。食品販売会社を経て1999年より実家が経営する酒販店に就職。
ウイスキーの販売に注力しながら2010年よりウイスキートーク福岡の立ち上げ と運営に携わる。
2014年からウイスキー蒸留所の設立へ向け用地選定や計画の立案などを始める。2017年より秩父蒸溜所での研修を受け入れていただく。2021年2月よりシングルモルトの製造を開始し現在に至る。
久住蒸溜所
KUJU
・所在地:
大分県竹田市久住町大字久住6426
・オーナー企業(創業年):
有限会社津崎商事
・創業(蒸留開始年):
大正年間(2021年)
阿蘇の国立公園に誕生した
少量仕込みのマイクロ蒸留所
大分県阿蘇くじゅう国立公園の一角に位置し、緑一面のパノラマを見渡す久住高原。名水百選にも選ばれた阿蘇山系の伏流水が湧き出るこの地で、2021年より蒸留を開始したのが久住蒸溜所だ。
開設したのは、この地で大正時代より酒販事業を営む津崎商店の社長、宇戸田祥自氏。大学院卒業後、流通業界で3年働き、29歳で家業を継いだ。酒販店事業に邁進する中、ウイスキー好きが高じて自ら蒸留所をつくることを決意。ベンチャーウイスキーの肥土伊知郎氏に教えを受け、秩父蒸溜所、マルス津貫蒸溜所での研修を経て、2021年1月にウイスキーの製造免許を取得。店舗の敷地内にある倉庫を改装し、念願の久住蒸溜所を開設した。
仕込水は敷地内にある2つの水源の地下水。このあたりは伏流水が湧き出るポイントで、井戸を掘ると年間を通じて安定した量と温度の水が自噴するという。ワンバッチ麦芽仕込量は500kgと小規模だが、年間約280回の仕込みを行い、9万リットル(平均アルコール度数60%)の生産を目標とする。
蒸留所の製造設備は、秩父蒸溜所にならいフォーサイス社へ依頼した。マッシュタンは上部が銅製のステンレス製で、容量3,000リットル。糖度約15度、2,500リットルの麦汁を得て、発酵槽に張り込む。5基ある発酵槽は、以前は木槽1基とホーロー4基だったが、2022年の8月にすべてダグラスファー製の木槽に更新した。久住の冬はかなり冷え込むことから、保温のため、そして安定した乳酸発酵を促すためだ。ピナクルのドライイーストを用い、約94時間かけて発酵を行う。
ポットスチルは初留器が2,500リットル、再留器が1,800リットルで、いずれもストレートヘッド型。パーコレーターを使った間接加熱で蒸留を行う。ワンバッチ500kgと少量生産のため、思った以上に原酒のブレが大きく、どのように安定させるかに苦労したという。そのため蒸留は7時間ほどかけて行い、カットのタイミングは官能で決めている。できたニューポットを加水調整して、最終的に60度で樽詰めする。
熟成庫は、4段ダンネージ式の第一熟成庫に加え、2022年に5段ラック式の第二熟成庫が完成した。2棟合わせて1200樽を貯蔵できる。熟成に用いる樽はバーボンバレルが7割、残りをシェリー樽などが占め、目指す酒質はスペイサイドモルトのような「淡く滋味深いもの」という。
2022年6月には、バーボンバレルで7カ月熟成させた、ノンピートの「久住NEW BORN」を初リリースした。3087本の限定販売だったが、すでに完売している。
塚形 直記
Naoki Tsukagata
月 光川蒸留所株式会社 営業課長
1983 年生まれ。山形県酒田市出身
大学卒業後、東京でアパレル会社に勤務。その後、地元山形でコントラクト家具の営業を務め、2023年の蒸留所立ち上げの際に月光川蒸留所へ転職。
最後の職としてウイスキーに向き合いたいという情熱を持ち、自ら親会社である楯の川酒造の門をたたく。楯の川酒造は創業1832年と古い歴史を持つ会社であり、そこで日本酒の製造を研修後、月光川蒸留所で営業職として勤務し、現在に至る。
月光川蒸留所
GAKKOUGAWA
・所在地:
山形県飽海郡遊佐町吹浦字西浜
・オーナー企業(創業年):
月光川蒸留所株式会社
・創業(蒸留開始年):
2021年(2023年予定)
山形県遊佐に2つめの蒸留所
酒田市の老舗酒蔵が建設中
山形県の遊佐に、2つ めとなる蒸留所が建設中だ。山形県酒田市の老舗日本酒蔵・楯の川酒造が、月光川蒸留所株式会社を立ち上げてウイスキー製造に乗り出した。
建設地探しには2~3年をかけ、月光川水系の上質な軟水が豊富に確保できる遊佐の地を選んだという。
糖化槽は三宅製作所製で容量2,000リットル、発酵槽は新洋技研工業のサーマルタンクを5基設置する。蒸留器は三宅製作所製で、初留器は容量2,400リットル、再留器は1,200リットル。
蒸留を開始するのは2023年9月の予定。原料は地元庄内産のものを使い、清酒造りで培った原料処理や発酵などに関する技術を活かしてウイスキーを造りたいという。シングルモルトと海外原酒を使ったブレンデッドウイスキー、2種類の製品を展開する計画で、基本的には中国など海外をメインに販売する予定だ。
加藤 喬大
Takahiro Kato
明利酒類株式会社 高藏蒸留所 常務取締役
1991年生まれ。慶應義塾大学卒業後、博報堂入社。
2020年、コロナ禍をきっかけに家業である総合酒類メーカー、明利酒類株式会社に戻る。医薬部外品事業、プレミアム日本酒事業などを連続的に立ち上げ、コロナ禍の経営危機を乗り越えた。その後、曽祖父・加藤高藏が立ち上げるも火災により消失していたウイスキー蒸留所を復活させ、60年ぶりにウイスキー製造を始める。2022年に免許を再取得し、『高藏』というブランド名で、酵母の開発技術の応用や、百年梅酒の樽を用いたプラムワイン樽での熟成など、江戸時代から培った技術を活かし、ウイスキーの製造を行う。
高藏蒸留所
TAKAZO
・所在地:
茨城県水戸市元吉田町338
・オーナー企業(創業年):
明利酒類株式会社
・創業(蒸留開始年):
1950年頃(1950年)
60年ぶりに製造免許を取得
水戸の酒藏が再び挑む蒸留所
茨城県水戸市で江戸時代から続く、総合酒類メーカーの明利酒類。江戸時代末期に新潟から水戸に入った杜氏、加藤高藏が加藤酒造店を創業したのを前身に、1950 年に事業を受け継ぎ、明利酒類として改組した。
1952 年には、清酒に次ぐ第2の屋台骨とすべくウイスキーの製造を開始。しかし、その数年後に工場の火災によって免許を返納することとなってしまった。以来、ウイスキー造りを断念していたが、約 60 年ぶりにウイスキー免許を取得。創業者の名を冠して蒸留所を立ち上げ、2022年9月から蒸留を開始した。
仕込水は那珂川水系、硬度89.80mg/ℓの中硬水。麦芽はポールズモルト社製の英国産ロリエット種を使う。将来的にピーテッドも考えているが、現時点ではノンピートのみを使い、ワンバッチの麦芽量は400kg。現在週1~2回程度の仕込みを行っているという。
マッシュタンは新たに導入したもので、容量1,900リットル。ウォッシュバックは既存のホーロータンク2基を使用しており、ディスティラリー酵母を使って113時間かけて発酵させる。
初留器は中古のストレート型ステンレスポットスチルを新たに導入したもので、再留器は既存の薮田産業製ステンレス焼酎用蒸留器。どちらも内部に銅を組み込んでウイスキー仕様に改造した。初留は2,000リットルを張り込んで7時間かけて蒸留、再留は1,000リットルを張り込んで5~6時間で蒸留する。
樽詰めアルコール度数は約63%。貯蔵庫は3段ラック式だ。また、モルトウイスキーだけでなく、米を使ったグレーンウイスキーも同じ設備で製造する。
今後は“共創”をテーマに、ファン参加型の新しいウイスキー蒸留所を目指すという。原酒の熟成過程を定期的に味わえる試飲会や、蒸留所での体験イベントなども計画する予定だ。